Vol.03
授業でにぎわう
学校図書館
教育課程の展開に寄与する学校図書館を目指して
2018
司書教諭
平野 誠
本校の図書館は、学校図書館では極めてまれな独立棟3階建ての図書館本館と校舎内1階にある図書館分館の2つの図書館から構成されています。
蔵書数は18万冊以上あり、規模は町の図書館レベルですが、最大の特徴は図書館内で日常的に授業が行われていることです。ここ数年は年間延べ800時間を超え、同じ時間に複数クラスの授業が行われることも普通となりました。昼休みと放課後も含めて「にぎわう」本校の図書館の魅力を紹介します。
図書館のあゆみ
私は教員の立場で本校図書館を経営している専任の司書教諭です。授業とクラス担任は持たず、図書館業務に専念しています。現在の図書館は、本館が1978年、分館が2010年にオープンしました。学校図書館としての規模の大きさや、学校教育への取り組みなどが国内外から注目されています。時計を巻き戻して、少しその歴史を辿ってみたいと思います。
現在の図書館本館の前身は、1963年に建てられた校舎(旧1号館)の3階に設けられた普通教室2つ程度の広さの図書室でした。学校の規模から考えるととても狭く、蔵書数も3万冊程度。当時、本校で欠けていたのは、この図書室など含めた文化的施設とされ、現在の図書館本館の建設・開館に向けて、全校を上げての取り組みが始まりました。吹き抜け構造をした高い天井と南側に大きなガラス面をもつ明るくのびのびとした空間設計。中央大学の図書館とお揃いで特注された質の高い机と椅子。館内にふんだんに配置された観葉植物などとの調和。そして150名程度が利用できる閲覧席などが実現し、「わが国図書館建築の範となるもの」として、「日本図書館協会建築賞」ほか東京都からも各賞を受賞しました。学校図書館としての受賞は今日まで本校のみです。利用者の立場にたって細部までゆきとどいた配慮や、あらゆる観点から学習の場としての図書館機能を発揮できるように設計された本校の図書館思想は、現在も脈々として生き続けて、授業でにぎわう源となっているのです。40年ほど経過した今、外壁の「赤レンガ」は、時と共に美しくなりました。館内のお気に入りの席に深く腰掛けてみましょう。一枚の額縁として設計された大窓から望む季節ごとの景色を鑑賞しながら、本校図書館の歴史を感じとって頂ければと思います。
教育活動のニーズに基づく資料収集
本校図書館が授業でにぎわう1つめの理由は建築面でしたが、2つめの理由は所蔵資料にあります。
本校の図書館は、学習の場として造られたことからも、開館以来、探究的な学習や調査・研究に対応できる図書館として、あらゆる分野の資料を収集してきました。従来からある紙に印刷された図書資料(アナログ資料)は当然ですが、電子資料(デジタル資料)も他校に先駆けて導入しています。
新刊書は最新の情報源として利用したいという要望が多く、毎週届く新刊書の情報を集めた専門誌や出版社・書店などからの情報で、司書教諭が図書の内容や著者の経歴等を確認します。その上で、蔵書構成やニーズなどを調査しながら総合的に判断して毎週末に発注をしています。図書は翌週始めには納品され、図書館スタッフの作業を経て、最短では発注から10日前後で館内に並び利用が可能となります。随時、教職員より推薦された資料を追加で発注。また、生徒からのリクエストも図書館で検討してから発注をしています。
図書の発注は司書教諭として一番重要で常に緊張する仕事です。どのような図書資料が求められているのかを把握する方法として一番良いのは、やはり館内で行われる授業を実際に見聞きすることです。そして、教員や生徒とのやり取り(レファレンス)の中でそのニーズを知ることができるのです。新刊書として並んだ図書がすぐに利用される様子を見ることが一番やりがいを感じる瞬間です。
ちなみに、本校では一部の図書を除いて、通常は表面全体に貼付する透明なブックカバーフィルムを昔から使用していません。これは、カバーや表紙のデザイン、その手触りなどの装丁(そうてい)も、その図書の大切な情報の一部と考えているからです。さらに、図書の紹介文などが書かれている帯(おび)も外して丁寧に表紙の裏面に貼付しています。これも本校図書館の伝統です。
電子資料も2003年度より導入しています。図書資料としても所蔵している50種類の辞書・事典類と新聞は全国紙4紙と北海道から沖縄までの一般紙11紙が、図書館内130台のほか、校内のネットワークに接続しているパソコンから最大100人まで利用できる体制を整えました。3年前からは電子書籍も実証実験として導入して授業等で活用されています。検索機能の利便性や1クラス単位での同時一斉利用が可能なこと。定期的にデータが更新され常に正しい情報が提供できるなど、電子資料は図書資料とあわせて日頃の学習に必要不可欠な図書館資料となっています。アナログとデジタルの資料を使いこなす「ハイブリット」な図書館をぜひ体験して下さい。
利用者と図書館の資料を繋げる工夫
本校図書館が授業でにぎわう3つめの理由は、本校独自の所蔵資料検索システム(OPAC)と図書館ホームページにあります。
本校では図書資料探しの「エントランス」(入り口)としてOPACと図書館ホームページの活用に着目しました。
本校のOPACの最大の特徴は、パソコンなどの検索用端末に利用者が調べたい事柄をキーワードとして入力すれば、例え書名にない文字からでも求める図書資料を容易に探し出せることです。OPACとして当然の機能ですが、本校と比べると他の図書館では検索に漏れる資料が多いはずです。購入・納品された1冊1冊について図書館スタッフが内容に関連するキーワードや情報をOPACに的確に入力することで実現した機能です。館内の貸出・返却カウンターでは、スタッフが図書を片手にパソコンを操作してる姿を常に見かけますが、実はこの入力作業を行っているのです。図書資料の内容を十分理解し把握しなければ、この作業を行うことは出来ません。従って、スタッフは誰よりも図書に詳しいので、OPACで資料が見つからないときは、ぜひ尋ねてみて下さい。
なお、授業等でOPACがより使いやすくなるように、そのリンクボタンを配した本校オリジナルの「図書館ホームページ」を作成しました。前述した電子資料や公共機関等が提供している情報収集のためのウェブページへのリンクボタンも厳選して配置し、図書館が提供する情報検索サービスをポータルサイトとして一元化したものです。このホームページは、図書館内だけではなく校内の生徒用と教員用パソコンから利用が可能となっています。もちろん、閉館後や休館日も利用が可能で、一部はご家庭のパソコンなど学外の端末からもアクセスできます。予習や復習で活用したいとの希望も多く寄せらていますので、将来はOPACを含む全ての電子資料を学校外からも利用できるようにしたいと考えています。
授業利用を前提とした環境づくり
本校図書館が授業でにぎわう4つめの理由は、授業が行いやすい館内環境を追求し続けてきたことでしょう。
図書館本館は吹き抜けのある大空間ですが、本棚を上手く配置して授業で利用できる4つのエリア(中央閲覧席・北閲覧席・東閲覧席・キャレル)を設けました。それぞれ机の配置も向かい合わせや前向きなど異なり、授業の内容によって使いやすい「場」の選択が可能となっているのです。6mの吹き抜け壁そのものを利用した250インチの壁スクリーンは、様々な教材資料の提示に活躍。図書館の本館と分館内にはOPAC専用のパソコンを始め、「図書館ホームページ」や文書作成・表計算・プレゼンテーションソフトが利用できる130台のパソコンと25台のプリンタ、3台のプロジェクターが常設されています。これら教育用ICT(information and communications technology)機器は授業のほか、昼休みや放課後の自主学習やクラブ活動などでも活用されており、利用者の多様なニーズに対応してきました。空調や照度の調節も含めて、授業などが円滑に進むように学習環境を整えることも授業でにぎわう図書館づくりには欠かせない要因です。
もちろん、図書館として必須の音のゾーン分けも整っています。本館では、入り口から館内の奥に行くに従って、ディスカッションもできるにぎわい集う空間から静寂の空間へ続きます。最上層の奥に位置するのキャレル(個席)は、足音さえ気になる最も静寂な空間で集中して読書や学習に取り組める場所として人気のスポットです。
昼休みや放課後など授業以外の利用では、好きな場所で滞在ができます。本館の4つのエリアと分館の中に、きっとあなたのお気に入りの場所を見つけることが出来るでしょう。