資料請求

chu-fu online

Vol.09

2020年4月
オンライン授業の構築

〜中学第1学年の奮闘記〜

2020

国語科教師

国語科

堀口 勝裕

このたび、中学校第1学年の担任団がどのようにしてオンライン授業のシステムを構築していったのか、その一部始終を書き記しましたので、どうぞ最後までお付き合いください。

第1段階 オンライン授業スタート

新入生を迎えるため、中学校第1学年の担任団は、当たり前のように入学式に向けて準備を調えていた。ところが、4月1日、
「5月1日まで学校閉鎖、入学式は延期」
そう決まった。

 この決定と同時に問題となったのは、閉鎖期間中の学習だった。

「生徒たちの学びは、課題の郵送やオンラインを利用することによって保障する」

学校としての方針は固まったが、中学校第1学年ではこの方針を実現するためにさまざまな問題が噴出した。特に大きな問題は数学と英語だった。中学校から始まるこの二つの教科は、課題を出すことができない。もちろん、簡単なものであれば用意できるが、そんな当座しのぎでは学びを保障することにはならない。

さて、どうするか。そこで浮上したのが、授業動画配信案だった。

しかし、まだ何の指導もしていない新入生がPCやスマホ、タブレットを使いこなせるのか。そもそもどうやって動画を配信するのか。各家庭においてオンライン授業に対応できる環境が整っているのか。ネット上のトラブルを誘発することにならないか。懸念はつきない。

それでも毎日のようにオンライン会議を重ね、試行錯誤を続けた。その結果、動画の配信にはYouTubeを利用することに決めた。

本校のICT環境からすれば、クラウド上に授業動画をアップして、閲覧用URLをひとつひとつ生徒に伝えるという方法もあり得た。しかし、その場合、動画のファイル形式によっては一部の端末で再生できないといったトラブルが起きることが予想された。再生ボタンを押しても再生できないとなったときに、すべての生徒が自分でそれに対処できるとはとうてい思えない。それならば教員がアカウントを取得し、指示通りの手順をふめば公開できるYouTubeの方が簡単だろうということで、YouTubeが採用された。

英語の授業の様子
英語の授業の様子
数学の授業の様子
数学の授業の様子

とはいえ、不定期に更新される授業動画のURLをどうやって確認させるのか。本校の公式ホームページ内にある学年用のページでは事務連絡も混在してしまい、生徒たちの情報整理が追いつかなくなるであろうことは目に見えていた。

そこで、公式ホームページとは別に「中央大学附属中学校1年生連絡ページ」を立ち上げることになった。これで事務連絡と授業連絡を分け、教員の方で情報を整理して提示することができるようになったのだ。

こうして突貫工事のように環境を整備し、4月11日(土)、いよいよオンライン授業が始まった。

公式ホームページ内の学年ページ
公式ホームページ内の学年ページ
中央大学附属中学校1年生連絡ページ
中央大学附属中学校1年生連絡ページ
課題掲載ページ
課題掲載ページ

第2段階 オンライン授業の本格実施

思いのほかオンライン授業は順調に進み、生徒からの問い合わせもそれほど多くない。お互いに顔と名前も一致しない状況の中で、担任団の人柄を知ってもらおうと始めた担任の自己紹介動画や日記も好評だった。

このままいけば大きな学習進度の遅滞もなく新年度をスタートできるだろう。そんな淡い期待を抱きつつ、5月10日(日)に延期された入学式の準備を進めていた頃、学校閉鎖期間の延長が告げられた。2度目の入学式の準備も、水泡に帰した。

それと同時に、
「5月18日から本格的にオンライン授業を始める」
 校長から全教職員に対し、新たな学校方針が伝えられた。

このとき何よりも大きな問題だったのは、数学や英語といった一部の授業だけでなく、それ以外の授業もすべてオンラインで進めていかなければならないことだった。

なぜそれが大きな問題なのか。通常の授業であれば時間割を設定し、それにともなって日々の時間が流れていく。生徒の立場からすれば、とりあえず教室に居て、自分の席に座っていれば滞りなく授業を受けることが出来る。しかし、オンラインの場合、そうはいかない。授業を受けるために、これまでとは異なる能動性が求められる。自分でその日のうちにやらなければならないことを把握し、端末を独占できる時間と照らし合わせつつスケジュールを組み、授業動画や課題を探し出して学習を進めていかなくてはならないのだ。新入生にそこまで求めるのは難しい。

どうにかして、これまでと同じように授業を受けられるシステムを構築できないか。そう考えた私たちは、「連絡ページ」の中に時間割のページを設け、日付をクリックすると時間割表が現れ、その表の中にある科目名をクリックするだけで授業の動画やその日やるべきことの指示が表示されるというシステムを作った。

さらに、授業の際に必要なプリント、宿題、受講確認のための課題も時間割表の中に入れることにした。こうすることによって生徒たちは起床後、「連絡ページ」にある時間割のタブをクリックし、その日の時間割表を画面に表示するだけで1日の授業がすべて受けられるようになった。

時間割ページ
時間割ページ
日付をクリックすると表示される時間割表
日付をクリックすると表示される時間割表

また、授業の方では体育を週6日、毎日1時間目に実施し、運動不足の解消とともにスマホ首や視力の低下を防ぐためのストレッチなどを取り入れていくことに決めた。それに加えて、事前にネット・リテラシーに関する動画も生徒たちに観てもらうことで、ネット利用に関するトラブルを未然に防ぐよう努めた。

こうして想定される懸念を可能な限り払拭した上で、授業担当者はそれぞれ授業の準備に取りかかった。

ところで、オンラインにて授業を展開するにあたり、この時点においては各授業担当者に対して双方向型ではなく、すべて配信型(一方向型)の授業を展開してもらうようにお願いしてあった。アンケート調査の結果、第1学年については生徒が独占できる端末がない家庭が多いということが判明していたからだ。

しかし、学校閉鎖はいつまで続くかわからない。そこで、週1回7時間目にあるクラスのオンラインHRだけは、Google Meetを利用した双方向型で実施しようということになった。これで少しずつ操作に慣れていけば、閉鎖期間がたとえ延びたとしても、環境さえ整えば双方向型の学習を展開することが出来る。

こうして迎えた5月11日(月)、学校としては翌週の18日から本格実施という方針だったが、中学校第1学年は一足先に時間割表に基づくオンライン授業を開始した。

動画をホームページに埋め込んだ様子
動画をホームページに埋め込んだ様子
オンライン授業の受け方を解説した動画
※こちらから動画をご覧いただけます。

第3段階 倦怠期を許すな

本格実施が始まるやいなや、教員は授業準備に忙殺されるようになった。そんな中、YouTubeの視聴回数や確認課題の提出数とその正答率を確認していると、日を追うごとに数値が下がっていることに気がついた。それはオンライン授業の本格実施から2週間が過ぎた頃だった。

確認課題の送信時間が深夜になっている生徒もちらほら出て来ており、生活リズムの乱れも懸念される。このまま放置しておくわけにはいかない。

そこで、次に講じた策は、毎朝のHR動画をおもしろおかしいものにすることだった。第1学年では7時間目のHRとは別に、毎朝HR動画を配信していた。主に検温結果の報告を促すためのものであったが、この朝のHR動画にもっと注目を集めることができれば、生徒たちは早起きして観てくれるに違いない。

かくして担任団の渾身の一撃が公開され始めると、案の定、生徒たちからは次回を楽しみにする声があがってくるようになってきた。閉鎖期間が終わる頃には、学校が始まるのはうれしいけれど、朝のHR動画が観られなくなるのはさびしい。オンライン授業もこのまま続けてほしい。そんな声まで届くようになっていた。

もちろん、正直なことを言えば、HR動画のてこ入れだけで視聴回数が回復するほど現実は甘くない。実際には、HR動画の改善と同時にクラス担任からの電話による面談、状況確認、声かけを頻繁に行うことによって、少しずつ回復の方向に向かわせていたのだった。

もうひとつ、この時期問題になっていたのが、授業の進度についてこられない生徒へのフォローだった。この点については、Google Meetを利用した双方向型の質問タイムを設けたほか、時間割表の中に「お問い合わせ」の項目を入れ、それをクリックしてアンケートフォームに質問を入力すれば、教員からメールで返事が届くというシステムを導入した。その結果、生徒たちは授業内容についてわからないことがあれば、気軽に連絡することが出来るようになり、わからないことをそのままにせず、授業を受けていくことができるようになった。

HR動画のひとコマ
HR動画のひとコマ
質問対応もできるようになった時間割表
質問対応もできるようになった時間割表
時間割サンプルはこちら

こうして本格実施も1ヶ月が過ぎ、ようやくオンライン授業も軌道に乗り始めたかと思われたちょうどその頃、登校再開の決断が下された。中附におけるオンライン授業も、ひとまず幕を閉じることになったのである。

いよいよ迎えた6月20日(土)、入学式が厳かに挙行された。

あれから6ヶ月、生徒たちはすっかり学校生活にも慣れ、人間関係も少しずつ広がりを見せ、中附生らしく楽しい学校生活を送っている。何だかんだ言っても、私たちはまだスタートを切ったばかり。この先、オンライン授業期間よりも、もっと濃密で充実した日々が待っている。ドタバタの中スタートした学年に、一体どんなクライマックスが待っているのか。今から楽しみでしかたがない。

さて、ここまで記してきたとおり、オンライン授業の実施については苦労の連続だったが、そのおかげである程度のシステムを構築することができた。そんな今なら、いつまた閉鎖期間が訪れても十分に対応することが出来る。しかし、それでも、やっぱりあの日には戻りたくない。

生徒たちの顔を見ていると、いつもそう思う。